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小林よしのり
2016.5.11 00:20日々の出来事

「私」的怨念が、「公」的空間に暴れ出る


昨夜の生放送は楽しかったし、発見も大きかった。

一番良かったのは、泉美さんがSNSというのは、

ツイッターにしろ、フェイスブックにせよ、閉ざされた

「私」的空間になりやすく、私情、怨嗟、陰口が渦巻いて

しまうということを指摘してくれたことだ。

 

そうなのだ。SNSは「私」的なつぶやきであり、

「私」的な恨みつらみのはけ口であったり、「私」的な

承認願望の底なし沼だったりする。

 

その「私」的な感情をそれなりの人数が集まって、

共有しあうから、まるでその「私」的な呪詛の念が市民権を

得たように勘ちがいしてしまうのだ。

 

しかも、その「私」的空間では、過激なことを言う者に

引きずられていく傾向がある。

SNS内で「朝鮮人は死ね」などというところまでエスカレート

してしまった言動が、市民権を得たと勘違いしてしまった

連中が、「公」的空間に暴れ出てしまったのが、ヘイトスピーチ

なのである。

 

同様にSNS内で市民権を得たと思い込んだ「男を呪う」言葉が、

「公」的空間に暴れ出てしまったのが、熊本地震の最中の

「生理用品を軽んじる男への怒り」のバッシングである。

 

その際の根拠になった「生理用品を拒否したボランティア」と

いうデマがどこから発生したかということまで、泉美さんが

見事に突き止めてくれていた。

そんなボランティアがいるはずないという「常識」的な感覚が

怨念の暴走の前には消滅してしまう。

関東大震災の際に、「朝鮮人が井戸に毒を入れた」というデマで、

自警団が暴走してしまったのと似ている。

 

SNSの閉鎖空間では、「私」的な怨念が市民権を得たと勘違いされ、

ついには「公」的空間に暴れ出てしまう。これが真相だろう。

泉美さんは、この現象を連合赤軍に例え、「連合生理軍」と

名付けていたが、言い得て妙だ。

 

SNSの「私」情を、「公」論と勘ちがいする愚かさは、

自称保守の論壇誌でも頻繁に起こっている。

自称保守論壇誌が、なるべく刺激的なタイトルや煽り文句を

付けるうちに、言論人の主張が過激化していく。

自称保守論壇誌はそもそもネトウヨ読者をも、商売相手として

承認しているから、過激な主張の方がウケを取りやすい。

その言論世間も、似た考えの持ち主が集まった閉鎖空間なので、

西尾幹二の事実誤認やデマだらけのバッシング記事に、

刺激を感じる読者(実は皇室に関して無知)の好評を得て、

商売になったりする。

 

西尾の「私」的な怨念が、雑誌内で市民権を得たと勘違いし、

編集長もトップ記事扱いにして、「公」共空間に流出させて

しまうから、本気で皇室を敬愛している者の目に触れると、

怒りの鉄槌が下ってしまうのだ。

 

SNSから自称保守論壇誌まで、「公私混同」なのである。

何が「私」で、なにが「公」なのか、分からなくなって

しまっている。

我々は「常識」と「国語力」で、「私的怨念」の暴走を

抑止しなければならない。

 

小林よしのり

昭和28年福岡生まれ。漫画家。大学在学中にギャグ漫画『東大一直線』でデビュー。以降、『東大快進撃』『おぼっちゃまくん』などの代表作を発表。平成4年、世界初の思想漫画『ゴーマニズム宣言』を連載開始。『ゴーマニズム宣言』のスペシャル版として『差別論』『戦争論』『台湾論』『沖縄論』『天皇論』などを発表し論争を巻き起こす。
近刊に、『卑怯者の島』『民主主義という病い』『明治日本を作った男たち』『新・堕落論』など。
新しい試みとしてニコニコ動画にて、ブロマガ『小林よしのりライジング』を週1回配信している。
また平成29年から「FLASH」(光文社)にて新連載『よしりん辻説法』、平成30年からは再び「SPA!」(扶桑社)にて『ゴーマニズム宣言』、「小説幻冬」(幻冬舎)にて『おぼっちゃまくん』を連載開始し話題となっている。

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